ハニー・ジンジャーエール
「なんでいるんですか」
「だって合鍵持ってますもーん」
「背後に突然現れないでくださいよ!!もーん、て……三十路の男がやっても可愛くないですよ!」
「でも見た目は若いでしょう?」
不法侵入で訴えてやろうか。
当たり前のように部屋に入ってきた堀さんは、首を傾げながらウィンクをした。
「おえっ」
「いくら僕でも傷つくんですけど…」
珍しくしょぼくれる堀さんは放っておいて。
デスクトップのパソコンの電源を入れる。
最近のパソコンは起動音も静かだ。
しかし、デジタル化が進んでいる時代に流されず、私の原稿はアナログで。
「……先生、なんでパソコン立ち上げたんですか?」
「え…?だってニマニマ動画観なきゃ………」
ペシーーーーンッ!!
────なっ、
「なんでスリッパで叩くんですか!?ていうかなにそのスリッパ!うちにない!!」
「そんなん観てるからいつもいつも原稿進まないんじゃないですか!!!スリッパは僕の持参です!!」
可愛いでしょう?このうさぎモチーフのスリッパ、と。
誇らしげにスリッパを掲げて見せる堀さんに、静かに湧く殺意。
「適度に雑音とかあるほうが集中できるんですー」
「絶対画面に釘付けになるでしょう!」
「うぐ……っ、そんなことないです!それより!なんの用事ですか!!用ないなら帰った帰ったッ」
堀さんの身体をぐいぐいドアまだ押すが、びくともしない。
そのスリッパ、鉛でも入ってんのか!