都の剣〜千年越しの初恋〜
序章 黄昏時の遭逢
賑やかな街から遠ざかるように、山の中にひっそりと建てられた古い神社。ここには、誰もいない。彼女が幼い頃からそうだった。

「どこの神様の所有物なんだろ…。お父様に訊いても「わからん。そんな暇があるなら舞の稽古をせい」だったしなぁ〜」

神社の石階段に座り、十六歳ほどの少女は古びた鳥居にもたれかかる。少女は幼い頃から家から避難する場所として、この神社に来ていた。この神社で誰かと会ったことは一度もない。

少女は、海老茶色の袴に牡丹の花柄の着物を着ている。いい家のお嬢様だということは一目瞭然だが、その手にはお嬢様には似つかわしくない大きな刀が握られていた。

少女は、家を抜け出して一日中遊んでいた。こうでもしないと自由を得られない。久々の自由は、少女にとってあっという間の出来事だった。

茜色に染まる世界。北の空に向かって漆黒の烏が群れをなして飛んでいく。少女は、あの烏たちと一緒にどこまでも飛んでいきたいと思った。
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