都の剣〜千年越しの初恋〜
緑が辺りにあふれ、穏やかに見えるこの景色に沙月は緊張感を持っている。嫌な予感は牛車が進むたびに大きくなり、今にも破裂しそうなほどだった。

嫌な予感は当たった。

木造の大きな建物の前で牛車が止まる。木は黒く塗られ、建物全体から威圧感を放っていた。

「……裁判所ですよね」

沙月は隣に立つイザナギを見つめる。イザナギの目は、まるで獲物を狩る前の獣のような目をしていた。

「その通りだ、我が娘よ。行くぞ」

イザナギは沙月の腕を掴み、裁判所の中へ入って行った。



裁判所は外見だけでなく、中まで威圧的だった。

法廷へと続く道も黒く染められ、置かれている調度品も、全て黒で統一されていた。

沙月はイザナギに腕を掴まれたまま、長い廊下を歩く。後ろから歩いてくるお付きの者や警護の者の足音は聞こえてこない。まるで、裁判所全てが音を発することを禁じているような重苦しい空気が流れていた。

しばらく歩き続けると、目の前に大きな扉が現れる。イザナギはゆっくりとその扉を開けた。
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