君が君である限り
白い白い白い。幾つ形容詞を並べたって足りないくらい、僕史上一番の白があたりを埋めつくしていた。
希望は容赦なく通り過ぎ、見えなくなる。

「心中しようか。」

隠れた人間を見つけた鬼のような笑顔が僕を刺した。
最早、恐怖などとうに越していた。
声の主は視線を逸らさない。この状況に適した寒さとはまた別の、心臓を貫かれるような冷たさを感じる。暖かみが感じられるはずの彼女の優しい瞳は、この状況ではこうも不安材料にしかならないものかと落胆した。
僕に何を求めているのだろう。彼女の言葉はいつも曖昧で、半分は嘘だ。
足が一向に動かない僕をじっとりと見た後、その視線は目の前の白にゆっくりと移っていった。

「君のことが好きだと言っただろう。君の名前さえ知らないこの私が、どうして君を好きになれようか。そんなことを君はずっと思案していたね。」

白の中に徐々に流れ広がっていく黒。
彼女の顔は、まるで今まで1度も日を浴びたことがないように透き通った白であるのに、その仕草、その声、その視線の全てが僕には黒に見えた。
恐怖するのはそのせいか、それとも底知れぬ彼女の言葉に、少なからず動揺しているせいか。

「私もずっと考えていたんだ。」

それまで落ち着いたアルトだった彼女の声は、とつぜん怪物を思わせる冷たい唸り声のように聞こえるようになった。
僕の前に広がる光景は異常なのか、それともそれを認識する僕の頭が異常を来たしているのか。

白が黒に飲まれ、迫ってくる。

「君がどうして、君なのかを」

彼女が僕に視線を戻した時、その瞳は最早光を宿さなくなっていた。
絶望したような、はたまた心が遠ざかっていくような。

黒に、染まってしまった。
苦しいのに、発する言葉を持たずに立ち尽くす。
息が出来なくなっていく。彼女の白がなければ、僕は生きてはいけないのに。

「私は君のことが好きだよ。でも、君はそれを苦しんでいただろう。ずっと」

返す言葉もなければ、言葉を返すための方法を僕は持っていなかった。
何故、どうして。隠してきた、はずだったのに。

「君は嘘つきだからね。」










そう言って彼女は僕を白の団塊に突き落とした。





ずっとずっと深いところに落ちていく、やっぱり嘘つきな彼女は同じ場所に落ちては来ない。

彼女の外壁を覆うようにして蔓延る黒に、飲まれてしまったのだろうか。
そう考えて、なぜだか涙が顔を伝った。


「君が何者かなんて、知らなくていいんだ。後悔なんて、するはずがないさ。
君は私と彼の.....大切な宝物だ。」

そう語る彼女の頬にも雫が見えた気がした。











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