初恋のキミに約束を
決意新たに ~萌香side~
「お疲れ様、カンパーイ!」
会社近くのバル「カシェット」で、祥子ちゃんと花菜美ちゃん、優子さんと女子会。
裕くんは新しい商品の宣伝の為、広告会社の接待に出かけてる。
昼間の騒動で気を使ってくれたのか、祥子ちゃんが予約してくれた。
最近オープンしたばかりの隠れ家の様なバルで、アイボリーの漆喰に電球色の照明で落ち着いた感じの店。
半数以上のお客さんは女性で占められ、居酒屋の様な活気とは違う感じだ。
「祥ちゃん、よく予約取れたわね・・・ココ中々人気なのよ」
優子さんが驚いている。
「たまたま、キャンセルが出たらしくて。ラッキーでした・・・と言いたい所ですが、実は従兄の店なんですよ」
「えっ、温(ゆたか)さんの店なの?」
私も花菜美ちゃんも、何度か顔を合わせたことのある祥子ちゃんの従兄。
飲食関係の仕事って聞いてたけど、こんな近くでオーナーをしているとは、ビックリだ。
「いらっしゃい。急なキャンセルで助かったよ。コース料理で悪いけど、ゆっくりしていってね」
ちょうど話をしている時に、温さんが顔をだした。
中性的な雰囲気の温さんは、穏やかに微笑んで厨房に帰って行った。
「祥子ちゃん、温さん相変わらず王子オーラ半端ないね・・・」
「祥ちゃんの目が肥えてる訳だ。あんなイケメンが身近に居たんじゃね・・・」
優子さんが祥子ちゃんに意味ありげに視線をおくる。
「優子さん!」
「うふふ、私は何も言ってないわよ。それにしても、見せたかったわ、会長の勇姿」
優子さんから、社長室での顛末を聞いた。
「あの杏子さん、いつも社長のお使いに来るんだけど・・・身内ってだけの部外者なのに何時も上から目線で、辟易してたのよ!会長に一刀両断されて、スカッとしたわ」
カラカラと気持ちいい笑い声をあげて、モスコミュールをぐい呑みする優子さん。
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、取り留めない話をしているうちに最後のデザートが出てきた。
瀬戸内レモンと清美オレンジのソルベで、ほんのりした甘さと爽やかな後味でアルコールがリセットされるよう。
温さんの好意で食後の珈琲を出して貰い、のんびりした所で私と優子さんのスマホが鳴った。
私は裕くんからのLINEで、会社に戻って来たから迎えに来ると言う。
優子さんも旦那様からで、店の外に来ていると言うことだった。
祥子ちゃんと花菜美ちゃんは、駅まで温さんの所のバイトくんが送ってくれるそうで、楽しい時間のお礼を温さんに言ってお開きとなった。
店を出た所で、優子さんの旦那様が車から出てきた。
丁度その車の後に、裕くんの車。
二人は顔見知りで、挨拶を交わして車に乗り込むと、帰途に着く。
「楽しんだ?今日はごめんな」
「お仕事お疲れ様。迎えに来てくれて、嬉しい。昼間の事なら、裕くんのせいじゃないでしょ。あの時は直ぐにわからなかったけど、みんなの前で杏子さんにキッパリと言ってくれたし、気にしてないよ」
・・・少しモヤッとしたけど。私の器が小さかっただけ。
「田貫部長に言われて、なるほど・・・って納得した」
「田貫部長?なんて言ってたの?」
「裕くんを信じなさいって。桜葉家の総意ってことは、裕くんも含まれてるって事だって・・・」
「そうか、良い人だな。田貫部長って」
「私の第二のお父さんだもの。優しくっていつも見守ってくれる自慢の上司だよ」
「今度は、俺が萌香の自慢の夫にならないとな」
運転しながら、私の右手をギュッと握った。
何だか、胸がキュンとなって・・・裕くんの横顔を見詰める。
「萌香、俺の顔に穴が開く。見詰めるのは運転中じゃない時に」
「ごめんなさいっ」
恥ずかしくなって、慌てて助手席の窓の外を見る。
「裕くんを、信じてるから・・・」
もうすぐ、家に着く。
すぐ裏手が裕くんの家だけど、何だか離れ難いな。
裕くんの家の敷地は広く、庭の一部に新居を建てて貰っている。
何時でも祖父ちゃん達に顔を出せる様に、桜葉家で気を使って貰って申し訳ないな。
後半月もすれば、一緒に暮らす事になるのにと、心の中で自身に言い聞かせる。
「萌香、また明日」
シートベルトを外した私の腕を引くと、裕くんに抱きしめられた。
裕くんの纏うグリーン系の香りに、バクンと心臓がなった。
「さあ、家に入って。見届けるから」
私を離すと、ドアロックを解除した。
「裕くん、送ってくれてありがとう」
裕くんが見守る中で、家に入った。
祖父ちゃん達は、早くに休んで居るのでそっと部屋まで戻る。
スーツをハンガーに掛けて、部屋着に着替えて落ち着いた所で、写真立ての中の両親に話しかける。
「お父さん達も、こんな風に色々あったのかな?でも、やっぱり私は裕くんが好き。裕くんを信じる。不安になる事もあるだろうけど・・・裕くんを信じるって決めたから。お父さんもお母さんも、見守っててね」