初恋のキミに約束を
眼鏡の苦悩と渡りに船
何かと煩い営業の青山を振り切って、やっと自席に戻った。

ひょっとしたら、萌香を狙って居るのか?

若手の中でもやり手の営業マンの青山なんかにかかったら、萌香なんて直ぐに堕ちてしまうかもしれない。

何か手を打たなければ・・・気ばかり焦る。

「随分戻りが遅かったな!」

商品企画の東海林吏だ。

コイツとは大学時代からの腐れ縁で同期。

今は商品企画の課長、直属の部下である。

「田貫部長に捕まって、珈琲に付き合わされた。企画課の写真だ、配ってやれよ」

ずり落ちかけた眼鏡のブリッジを中指で押上げながら、淡々と述べて商品企画の写真袋を吏に押し付ける。

萌香は丁寧にも、部署の課別に分けてくれていた。

「珈琲って・・・ひょっとして萌香嬢が入れたヤツか?」

「何故だ?」

「お前知らないのか?田貫部長のお気に入りの珈琲マシーン。総務の癒し系って、萌香嬢社内で結構人気あるんだぜ」

「・・・そうか。確かに美味い珈琲だった」

「くーっ、羨ましい。俺も美味い珈琲飲みたかったなぁ・・・って、うかうかしてると、カッ攫われちゃうぞ。拗らせてるのも大概にしないとさ」

吏は俺と萌香の事を、知っている。

正確には、おれが萌香に拘っているのを知っているのだ。

頭の痛い事に・・・。

「営業の青山を筆頭に、若手の人気急上昇だってよ」

「お前に言われなくても、手は打つ。さっきも青山を撃退してきた」

「おお、さすが我社の撃墜王だな」

「変な二つ名を付けるなよ。俺は赤い彗星でもなけれは、連邦の白い悪魔でもないぞ・・・」

「ハハハ、事実だろ。お前の後ろには女共とクライアントの屍が累々としてやがる」

そんな俺に含みを匂わせるようにニヤリとして、吏は席に戻った。

吏に大見得を切ったものの、裕一は頭を抱えた。

元々、色恋沙汰は苦手な朴念仁の俺に打つ手は思い浮かばない。

見た目やステイタスで寄ってくる様な頭の軽い輩に興味は無かったし、上手く口説く手管など無い。

子供だった小学生の時なら、何とかなっただろうが・・・エスカレーター式の私立中学へ進学してからほぼ、萌香とは接点がない。

「外堀から埋めて囲い込めれば・・・或いは、何とかなるのか?・・・埋める外堀をどうするかが、全くわからん」

独りごちて軽く首を振ると、仕事に取り掛かった。
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