初恋のキミに約束を
数日後、悩めるインテリ眼鏡に転機がやって来た。

「はっ?見合い?」

親父に呼び出されて、社長室に出向くと縁談が用意されていた。

「お前も役職に慣れてきたし、そろそろ家庭を持って落ち着いても良い頃合いだと思ってな」

頭でっかちな俺と正反対な親父は、ニコニコと・・・と言うよりニヤニヤと意味ありげな視線を俺に投げかける。

「そんなに会社がヤバイのか?」

「馬鹿、そんな訳ないだろ。何でそうなるんだ」

「見合いと言えば、政略結婚なんて相場が決まってないか?」

「さくら堂はそんな事しなくても、経営は揺るがないぞ。お前も盛り立ててくれるんだろうし」

「まあ、それは吝かではないが・・・じゃあ何でいきなり見合いなんだよ」

「母さんも心配してるんだ。三十にもなってお前は彼女の一人でも紹介してくれないし、このまま孫の顔も見れないで年老いて行くんじゃないかってな」

「・・・そうならない様にはしたいと思ってはいるが、こればかりはな・・・」

「爺さんも婆さんも、曾孫はいつだってプレッシャーを掛けてくるから、奥手なお前に見合いをセッティングしたんだよ」

「・・・」

「お前も思うところはあると思うが、写真だけでも見てみろ」

渋々写真と釣書を手に取り、写真を見た途端釘付けになった。

桜色の振袖を着て、柔らかな笑みを浮かべる萌香が写っていた。

成人式の時の写真の様だ。

・・・可愛い。

ハッとして、 写真から顔を上げて親父を見ると、胡散臭い笑みで言った。

「見合い相手は、都築さんちの萌香ちゃんだよ。全く知らない仲じゃないし、良い話だと思うよ。俺はこんな可愛い娘が欲しい!」

「断言か!何故、萌香なんだよ・・・」

「何だ、不満か?萌香ちゃんは昔から知っているし、都築さんは外部とは言えウチの取締役だしな。爺さんも婆さんも、母さんも可愛い萌香ちゃんならいつウチに嫁に来ても問題ないし。都築さんの家も近いからな。それにお前、子供の頃から可愛い萌香ちゃんが大好きだろう?」

畳み掛ける様に言い募る親父に、初めから外堀は埋まってたんだと苦笑する。

それにしても、可愛い連呼し過ぎたろう。この能天気セクハラ親父。

「不器用なお前に期待してると、孫の顔をいつ見れるかわからないからな」

さすがはやり手の経営者だ。

でもって、すっかり俺の事はお見通しだ。

お膳立てがある以上、後は俺が萌香を落とすだけだ。

身内の援護射撃は正直、ありがたい。

「わかった。見合いするよ」
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