初恋のキミに約束を
不測の事態
あれから直ぐに、萌香を連れて婚約指輪を買いに行った。

虎視眈々と萌香を狙う輩に、牽制の意味を持たせる為にも、萌香は俺のモノだと言う印を着けておきたかった。

こんなにも自分に独占欲がある事に、ビックリだ。

萌香の所属が総務ということもあり、田貫部長に婚約をした事を報告した。

萌香の父親、護さんの大学時代後輩だった田貫部長は、俺が離れている間に知り合い、父親の様に親身に萌香を面倒みてくれていたらしい。

「モカちゃん、良かったなぁ。桜葉部長なら安心だ。大好きな裕くんと結婚かぁ・・・都築先輩にも報告しなくちゃな」

手放しで喜んでくれた。

大好きな裕くんって・・・どこまで知ってるんだぽんぽこ部長?

「私もモカちゃんを桜葉部長にススメようと思ってたんだよ」

「部長・・・」

萌香は瞳をウルウルさせている。

俺は気を取り直して、頭を下げた。

「会長と社長の勧めもあって、田貫部長ご夫妻に是非仲人をお願いしたいと思いまして、いかがでしょうか?」

「部長、奥様も私は第二のお父さんお母さんと思っています。是非お引き受け願えないでしょうか」

萌香も俺に習い、頭を下げた。

「良いのかい?私ら夫婦じゃ、役不足じゃないのかな。しかし、会長と社長の推薦なら大丈夫なのか?」

田貫部長は、亡き先輩に遠慮しているのか迷っているようだ。

「「お願いします」」

戸惑っていた田貫部長も最後には、喜んで引き受けてくれた。

人の良いぽんぽこ部長は健在だ。

総務部長のブースから出ると、月野が安井さんを連れて駆け寄って来た。

「モカちゃん、おめでとう。裕一に目一杯幸せにしてもらうのよ!」

「モカ、おめでとう。桜葉部長、モカを泣かしたら只じゃ済まないですよ!」

「何だ?社長から聞いたのか?」

「勿論よ。可愛い娘が出来たって、朝からデレデレなんだから」

萌花と顔を見合わせて、吹き出した。

「アハハ、さすが親父だ」

「想像着きます」

「萌香ちゃん、結婚するってホント?」

「青山さん・・・」

営業部から急いでやって来たのか、息を切らせて青山が輪に入る。

「相手は俺だが、今日は内勤なのか?青山」

「え?桜葉部長と?いつの間に・・・」

「残念だったわね、青山くん。モカちゃんと裕一は、幼い頃からの付き合いなのよ」

月野がドS女王バリにバッサリと、一刀両断にする。

駄目押しに安井さんが青山をグイグイと押しやる。

良し、二人ともナイスアシストだ!

「と、言うことなんで、青山さんは営業にお出かけくださいね。花菜美が焦ってますよ」

「青山さん、アポ間に合わなくなりますよ!急いで下さい。あっ、萌香ちゃんおめでとうお祝いはまた、ゆっくりね!ちょっと、青山さん!早く!!」

慌てて追ってきたらしい佐藤さんに引っ張られ、青山は呆然としたまま戻って行った。

お前なんかそのまま、取引先の彼方へ消えてしまえ。

・・・って、俺こんなキャラだったか?

「式はいつあげるの?」

月野が声をあげる。

会社関係のイベントは、秘書課の調整が必要だからだろう。

「式は準備もあるし、招待客のリストアップもあるから半年後だ。入籍だけは今週末にする」

「来週からは、モカちゃんは部長夫人ね」

キャーっとハートが飛び交いそうな黄色い歓声が、総務部内で響き渡る。

「そんな話、聞いてないわ!」

突然割り込んだ金切り声に、一同が視線を向けると、再従妹の池波杏子が仁王立ちしていた。

「裕一さん、私という許嫁が居るのにどう言うこと?」

仇敵でも見るような目で、萌香を睨みつける杏子。

隣で萌香が息を呑むのを、目の端に捉えた。

このタイミングで、厄介な奴がきた。

父の従姉の娘で、老舗和菓子屋の杏林堂の次女で、ヒステリー持ち。

昔から俺に付き纏っている、我儘なオンナ。

そう言えば、都築の家に遊びに行ってるといつも迎えに来て、俺と萌香の邪魔ばかりしていたな。

俺は冷静に切り返す。

「許嫁?何時の話をしているんだ?」

「私は子供の頃から、裕一さんの許嫁だって聞かされて育ったのよ!」

「悪いが、そんな話が出たのは俺が小学生の時で、爺さんが言った身内の酒の席での戯れ言だ。その場限りの事で何の効力もないし、萌香の事は桜葉家の総意で進めている。済まないな、杏子」

謝る義理も気持ちも全くないが、こんな聴衆の面前だ・・・穏便に済ませたい。

「それに、キミは会社に何をしに来たんた?杏林堂とは取引が無いはずだが・・・?」

「大智おじ様に頼まれて、品物を届けに来たのよ」



< 8 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop