焦がれる夜に、あなたのキスを。【完】番外編更新
ちゃんとブレーキかけながら飲むし、そう思いながらさっきより幾分かペースを落としてグラスを傾けていたら。
「いーつき。来ちゃった」
「……いらっしゃいませ」
声だけでも華やかさがあるから、誰かなんて一発で分かる。
ああ、なんでこのタイミングなんだろう。
「あら?こんにちは。ふたりとも来てたのね」
「はは、俺たちよく会いますね。仕事場でもプライベートでも」
「亜里沙さん。お疲れ様です」
この至近距離で話しかけられたら、知らないふりなんか出来ない。
瀬戸さんもいる手前、相手に対して素っ気ない態度をとることもダメだ。
「隣に座っても?」
「ぜ、ぜひ」
私の隣の席を指さされ、どうぞと促す。
ローズ系の香りが鼻腔を掠めた。
「モスコミュールお願い」
「かしこまりました。ただいまお作りいたします」
「もー、なんで来たんだよって顔しないでよ。いいじゃない、事前に連絡しなくても」
私には、成宮さんは柔和な笑みを浮かべいつも通り接客しているように見えた。