焦がれる夜に、あなたのキスを。【完】番外編更新
「樹季にはそういう存在がまだいなかった。だから私がそうなろうって決めたの」
成宮さんがどんなにはぐらかそうとしても構って、話を聞く。
それを繰り返すうちに成宮さんの中で亜里沙さんの存在が変わっていったようで。
「樹季が彼女をつくらないって話はもう知ってるでしょ?」
「……前に、少しだけ聞きました」
「だから私は彼女じゃなくていいの」
意外だった。
成宮さんの彼女になれなくていい、そう言ったことが。
「樹季は自分のバーテンダーっていう立場や過去のこと。全部ひっくるめて愛する人はつくらないって決めてる」
亜里沙さんは最後のひとくちを食べ終わり、コーヒーで甘さを流す。
「それは相手を傷つけたくないから」
正解だ。
彼のことは全部分かっていると確信を滲ませながら言葉を紡ぐ。
「だから私は彼女っていう立場じゃなくていいから樹季のそばにいることを選んだのよ」
「……どうして」
「樹季が人を傷つけたくない、って言ってるんだから。そんなマネはさせない」
亜里沙さんは、なんとしてでも成宮さんの彼女になりたいんだと思っていた。