焦がれる夜に、あなたのキスを。【完】番外編更新
「成宮さん、あの」
邪魔にならない場所から話しかけたら、はぁ、と小さく溜息をはいて。
綺麗な唇が、言葉を紡いだ。
「今、営業時間外なんで」
お店が営業時間外だから?頭をフル回転させて続きの言葉を予想してみるも分からない。
「………えっと……?」
「相手してほしかったら、店に来いよ」
抑揚のない声、素っ気ない言い方。
あの物腰柔らかい雰囲気にいつでも優しい笑顔で話してくれる成宮さんは、どこにいったんですか?
私は夢でも見ているのか?
夢だとしたらもうちょっとマシな夢を見たい。ロマンチックの欠片もない。
「私は、ただ成宮さんがいたから挨拶しようかなって」
「あっそ。じゃ」
成宮さんはいくつかフルーツをカゴに入れてスタスタとレジに行こうとする。
「ちょ、成宮さん!」
私も急いで自分のお会計をして材料をビニール袋に詰めてからお店の外へ出た。
「待ってください」
「何で」
「少しくらい会話してくれても、いいじゃないですか」
別に引きとめて長話をするつもりなんて全くない。他愛ない話を少し出来たらって思っただけで。
けれど成宮さんはゆったり振り向いて、シニカルに笑ってみせた。
「言っただろ。営業時間外まで店と同じように相手するとでも思った?」
「そ、れは」
「俺はしない。ずっと笑って話に付き合ってほしければ店に来ることだな」
私が言い返す言葉を見つけてる間に、成宮さんは今度こそ背を向けて行ってしまった。
どんどん背中が遠くなっていく。
今の、何だったんだろう。