藍と未来の一つ屋根の下
寺田のマンションの場所を聞いて、未来はデザートスプーンの手が止まった。


未来の家から電車で1時間はかかる。


「ちょっと遠くなっちゃうけど高校には通えない距離じゃないし、家は今より広くなるよ」


「おじさんがうちに来ればいいじゃん」


電車で1時間。その距離は未来にとっては受け入れられなかった。


学校なんてどうでもいい。藍の家から離れてしまう。


「ごめんね。僕のマンションは賃貸じゃなくてもう購入しているんだ。簡単に引き払えないんだよ」


「じゃあママはそっちに住んで私は今の家にいる。今までずっと家事してたし一人でもいいよ」


有里華と寺田は困ったように顔を見合わせた。


「ごめんね未来ちゃん。今のマンションのローンと未来ちゃんの家の家賃を両方払うことはできないんだよ」


「でもママも貯金あるから」


有里華が慌ててフォローする。


「しばらく貯金で家賃払ってもいいんだよ。未来も急に藍ちゃんやばーちゃんと離れたら寂しいと思うから」


「それはダメだよ」


口を挟んだのは寺田だった。


「これから子供が生まれて未来ちゃんの進学もあるんだから。有里華のお金は大切にするべきだ」



勝手だ。未来は急に腹が立ってきた。


勝手に妊娠して勝手に結婚して、勝手にすればいいのに、なんでそっちの都合で私の生活まで勝手に変えるの?


「ママとおじさんは二人で住めばいいじゃん。私は今の家離れないから」


有里華が困ったように未来を見つめる。


「未来ちゃん」


口を開いたのは寺田の方だった。


「君はまだ未成年なんだから。勝手なことは言っちゃいけない。家は今より広くなるし、自由にもさせてあげられる。僕も未来ちゃんのことは本当の父親として接するつもりだよ」


未来は黙って、目の前のお皿のジェラートがら溶けていくのを眺めていた。
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