藍と未来の一つ屋根の下
藍と未来の一つ屋根の下
車の助手席から窓を開けると、3月の心地よい風が未来の頬を撫でた。


大きく息を吸い込む。


本当はもっと早く家を出るつもりだったけど、妹の凛(りん)と遊びすぎてすっかり家を出るのが遅くなった。


手元に置いたスマートフォンの振動に気づきLINEを開くと、純からだった。


『桜咲いてるよ』


メッセージには、桜の木の下で女性と二人で笑う純の写真が添付されていた。


『桜じゃなくて彼女見せたいだけじゃん』


そう返信すると、『正解』と純から返信。


来月で社会人2年目の純は、彼女と結婚とか考えているのかな。


そんなことを考えていると、「コンビニ寄るか?」と運転席から声がした。


「まだ大丈夫」


「親父か?LINE」


「ううん」


運転席の藍はそれ以上聞かなかった。藍はいつもそう。詮索しないし余計なことを話さない。


未来にとってそれはたまに寂しくもあるけど、それが藍なんだと思う。


この日の藍はグレーのパーカーにデニムのパンツ。白いジャケットは荷物だらけの後部座席の段ボールの上に脱ぎっぱなしだった。


藍はこの三年でまた背が伸びた。


「ばーちゃんは?」


「もう杖持ってねえなぁ。学童保育でボランティアしてるよ」


「あはは。相変わらずだね」


「100歳くらいまで生きるんじゃねーの?」


今月免許を取得したばかりの藍の運転にぎこちなさはなく、乗り心地がよかった。
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