さよなら、Teacher
「そうねぇ、じゃ、まず最初の教材は…これにしましょ」
恵が手に取ったのは、外国人アーティストのCDだった。中身は、オーディオの中にあり、ケースは歌詞カードだけ。
「今聞いてるこのCDの全曲和訳。ちょっと楽しそうでしょ?」
「それ、マジで言ってんの?」
「もちろん。最初は、これ。一曲目のHide & seek 。Hideは隠れる。seekは、探す」
「隠れると、探す?」
「そ。この曲名はね、"かくれんぼ"よ」
ヒロは、なるほど、と頷きベッドから降りて恵の手からCDケースを取り上げた。
「かくれんぼ?へぇ、そんな曲だったんだ」
さっきまでの、ダルそうなヒロの声に少し、張りが出る。
「そう言われると、そんなイメージかもな。
先生は面白い人だね。オレの成績上げようとか、意気込まないワケ?丹下の息子に取り入ろうとかさ」
「ヒロくんのお家はお金持ちみたいだけど、何をしているの?」
ニコニコ。恵の邪気のない笑みにヒロはふぅっとタメ息をついた。
ー知らないだけか。見たところ、田舎モン臭いしな。
「先生の目の前にあるオーディオ。アリオンってメーカー。
その会社作ったの、うちのじいちゃん」
アリオン、といえば、オーディオ、テレビ、パソコン等の電化製品をはじめ、音楽制作も手掛ける日本が世界に誇る大会社だ。
「すごい!
でも、なんか、私とは世界が違いすぎて、ピンとこないな」
恵の正直な感想。
「先生、出身どこ?」
「東北。山と川と秘湯しかない自然豊かなところよ」
恵がそう言って肩をすくめた時、ヒロの携帯がけたたましく鳴った。その着信画面を見てヒロは小さく舌打ちをする。