さよなら、Teacher
「メグ…

何があった?どうしてそんな事言うの?
そんな、人生終わったみたいな顔して。


俺のせい?」


ヒロは、冷静に恵の瞳の奥の感情を探る。

恵は、思いつめている。一人で『何か』を抱え込んでいる。
だが、きっと問い詰めたところで、『何か』は教えてくれないだろう。瞳には決意が宿っている。



「私はこれで、帰ります」


最後まで、ヒロは恵を気遣ってくれる。
本当に恵の事に関しては、鋭い。隠しても、バレてしまう。

恵はなるべく感情を捨て、出来る限り無表情を貫く。


4月になれば、ヒロにも分かる。恵が選んだ別れの意味が。
そして、仕事と自分を天秤にかけ、仕事を選んだ恵を憎むだろう。



「色々、ありがとうございました」



「恵さん…行かないで」
黙って二人を見ていた夫人が、止まらぬ涙もそのままに恵を引き止める。


恵は夫人に向かって深々と頭を下げ、もう何も言わなかった。


恵は、まっすぐにヒロを見つめた。
ヒロも目を背けず、恵をみている。


「あなたは、私の大切な初めての生徒。

さよなら。




さよなら、ヒロ」



重なる視線を外し、恵はヒロに背を向けて、部屋を出た。


悲しすぎると、涙が出ないことを恵は初めて知った。




ヒロ。


ヒロ。



もう、この名を口にすることはないだろう。
胸の奥に大切な思い出として、しまっておくから。


だから、もし、学校ですれ違うことがあったとしても



私とあなたは、先生と生徒



さよなら、私の大好きなヒロ…







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