さよなら、Teacher
「まぁヒロ、探してたのよ。それにどうしたの珍しい、ピアノなんて…」
丹下夫人がピアノの音を聞きつけてやって来ると、曲の途中で、ピタッとヒロは指を止めた。
「この先生があんまりにもヘタだからさぁ」
ヒロとしては、嫌味を込めて言ったつもりだった。ところが、満面の笑みで恵は手を叩いていた。
「すごい、すごいわ、ヒロくん上手いのね」
屈託のない笑顔。純粋に喜んでいる。
「私がピアノをやっていたもので、子供たちにも教えていたのです。…私に教わるのが嫌ですぐに音楽教室に入ってしまったけれど」
夫人の言葉にヒロは肩をすくめた。
「行こうぜ、メグミ先生。あ、言っとくけど、オレ英語まるっきりダメだから」
ヒロはそう言うとピアノを離れ、夫人の脇をすり抜けていく。恵も夫人に頭を下げてからヒロの後を追った。