さよなら、Teacher
9.家族
「恵先生、ヒロから聞きました」


丹下家の、ピアノがある広い客間のソファに
恵と、丹下夫人と、ヒロが座っていた。

これから先、真面目に付き合っていきたいと、母親に告げたのだ。


「恵先生がいらっしゃるまでのヒロは、まるで糸の切れた凧のようにフラフラして、地に足がつかないというか、とにかく何にもやる気が無くて私も困っていました。

でも、恵先生のお陰で、やっとこの子らしさが戻って来ました。
恵先生になら、安心してヒロを任せられます。これからも、よろしくね。ヒロを支えてやって下さいませね」

「…はい」

恵は夫人に頭を下げた。夫人は優しく微笑む。

「そうだ、恵さん。来週、ヒロの兄の秀則…ヒデが、留学先から戻って来るの。
その時、家族で夕食会をするから、ヒロのパートナーとして出席してね。ヒデも連れて来るって言ってたから」

「へぇ、前回はCAを連れてきたよな?今回は?」
「モデルさん、って言ってたかしら」

2人の会話が分からず恵が首をかしげていると、ヒロが笑って言った。

「ヒデはイギリスから帰ってくるたびに、連れて来る女の子が違うんだ」


「なるほど、さすが兄弟」

恵が妙に納得していると、ヒロはムッとする。

「オレはもう、卒業した。一緒にするなよ」




ヒロの兄、丹下秀則は恵と同い年。会社の後継者になるべく、イギリスで経営学を学んでいる。
幼い頃から成績優秀で、品行方正。女性にもよくモテるが、どうも長続きしない。

ヒロの家は、家族が揃うことがまずない。
父親はあちこち飛び回っていて、恵は一度だけすれ違いざまに挨拶を交わしたことしかない。

そんな家族が一堂に会して食事をする場に呼んでもらえたことに、恵は素直に喜んだ。
< 70 / 104 >

この作品をシェア

pagetop