さよなら、Teacher
「あれ、ちょっとまてよ、モデルのAYUMIといったら、最近婚約したよな。
今やってるJUNNの仕事を最後にモデルも引退するはず。
確か、議員の久坂明(くさか あきら)と婚約したんじゃないか?」
秀則の言葉に久典が反応を示した。
「ほう、久坂議員と…」
それまで内心、ただの田舎娘と恵を鼻にもかけていなかったのだが、現在若手No.1との呼び声高い議員の名前と結びつき、久典の食指が動いた。
そしてその事にヒロは真っ先に気づいた。
「ヒデ、ところでイギリスはどうだったんだよ」
ヒロは興味ないそぶりで強引に話題を変える。
「…へぇ、ヒロ、お前らしくないな。彼女がこの話題を避けたがってるって分かって話を変えるなんて。
何事にも無関心なお前がねぇ」
秀則は、ふぅんとヒロを見る。
「なんだよ、ヒデ」
「いや。
そうだな、イギリスは相変わらずさ。この間、アメリカの大富豪の御曹司が留学してきたんだが、これがものすごくバカで」
秀則は、イギリスの話を適当にしながら、思う。
弟ヒロには才能がある。
だがそれに気付かせず、その上、兄が優秀だと事あるごとにコンプレックスを抱くように仕向けた。
ヒロをキバを抜かれた腑抜けのライオンにしたはずだった。
でも、どうやら今は違う。
黙っていても、自信が輝きとなって出てきている。
ーヒロが本気になったら、危険だ。今のうちに潰しておかなければ。
秀則は、ちらりと恵を見た。落ち着きを取り戻し、ヒロと楽しげに会話をしている。
秀則の口の端が小さく歪んだ。