さよなら、Teacher
「どうしたの、メグ?」

ヒロの声も聞こえていない。恵は立ちすくんでしまっていた。


「あぁ、来たか。
久坂先生、うちの次男の広宗と、若月恵さんです。

広宗、こちら、国会議員の久坂先生と奥様だ」
久典の紹介で久坂夫妻がゆっくりとヒロと恵のほうを向く。


ヒロは思わず息を飲んでしまった。

確かに似ている。恵が歳をとり、濃いめの化粧をすればきっとこんな顔になると、容易に想像できる顔がそこにあった。


「はじめまして、久坂明です」


どうしたらいい?どんな顔すればいい?
恵はあまりの動揺に声も出ない。立ち去りたい衝動もあるが足はまるで床に張り付いてしまったように動かない。

「丹下広宗です」

そんな恵をかばうように、ヒロが数歩前に出てスマートに久坂に挨拶をした。


これが、父と兄が仕組んだ出会いである事は火を見るより明らかだ。以前から二人は政界とのつながり、太いパイプを欲していた。
恵をエサに久坂と繋がろうと目論んでいるに違いない。


「久坂 歩です」


歩が何を考えているかわからない。笑顔を浮かべているものの、目は笑っておらず何も読み取れない。


「若月 恵です」

恵も何とか声を出したが、かすれている上に震えていた。
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