さよなら、Teacher
恵は、力の入らない足を引きずるように化粧室を出た。


姉達のいる会場にはもどりたくはなかった。

廊下の隅の椅子に座る。
まだ歩のタバコと香水の匂いが鼻に残っていて、なんだか息苦しさを感じ、首元を両手で覆う。
すると、首を飾っていたネックレスがシャラリと手に触れた。


ヒロと付き合っているのは、好きだから。
お姉ちゃんとは、違う。

「メグ!大丈夫?ごめん!」

恵を探していたのだろう。髪を乱しながらヒロが駆け寄ってきた。

「…ヒロ」

その顔を見た途端、恵の心の糸が切れた。

頬を一筋涙が零れ、ヒロに抱きついた。ヒロも受け止めてくれる。

「ゴメン、俺、久坂が来るなんて知らなくて。父さんが急にパーティにメグを呼べって言い出したんだ。ヒデが女連れて来たから、お前も連れて来いって。メグは就活で疲れてるからいい気分転換になるだろうって。

なんで、父さんとヒデの思惑に気づかなかったんだろ。メグ、ゴメンな」

何度も何度もゴメンを繰り返しながら、ヒロは恵の背骨が軋みそうなほど、強く抱きしめてくれた。

そして、恵の震えと涙が落ち着くと、2人はパーティには戻らず固く手を繋いで街へ飛び出した。
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