さよなら、Teacher
アパートの部屋で恵はベッドに寄りかかったまま、外が暗くなって来た事にも気づかないほど、放心していた。
丹下家には、今日は都合が悪くなった旨の電話をした後、携帯電話はテーブルに放り出した。
部屋に明かりをつける事もせずにいると、暗闇の中、携帯電話が着信を知らせるメロディーと光を放つ。
ヒロからだ。
恵が電話を取らずにいると、メロディーが鳴り止む。すると今度はメールの着信を知らせた。
今は彼の優しさが痛かった。
彼はまだ高校生。まだまだ、これから。
恵の事なんてすぐに忘れて、彼に似合う女の子を見つけるだろう。
ーでも、私は?
やっと決まった仕事。
これを断れば、大学卒業するまでに見つからない気がする。
夢がすぐそこにある。
私達は教師と生徒。付き合っていられる訳がない。
ヒロに相談すれば、きっと、『学校には秘密にして付き合えばいい』と言うだろう。
でも、恵は嘘をつくのが苦手だ。
きっとどこかでボロが出る。
そのせいで、ヒロがどんな目にあうか。
それが何より怖かった。