転生令嬢は小食王子のお食事係
　私、アイリーン・フリートウッドがいるここは、王妃宮。クレディローシェ国の王宮にある王妃が住む館だ。
　私は、十六歳になった数ヶ月前に王妃付きの女官として王妃の側に召し上げられ、行儀見習いとして王妃に仕えている。
　女官とはいえ、下働き領域であるの厨房に出入りしするのは、本来ならば外聞が悪い。しかし、私は食べることが大好きだ。貴族向けの格式張った高貴な食事も悪くはないが、食材の味を存分に楽しむ素朴なものや、カロリーや糖分が度外視のジャンクなものなど、気持ちの思うままに料理を楽しみたいのだ！
　こういう考えをするのは、私がちょっとだけ特殊だからだ。
　――私は、かつてこの世界とは違う別な世界で生きた記憶がある。
　その中でも、日本という多種多様な料理が食べられる国に生まれ、生きた。なぜ死んでしまったのかはわからないけれど、まるで映画を見ているように思い出す記憶の中に出てくる自分はそんなに年を取っていないので、早世だったんだろうなと思う。
　物語を見ているような前世の記憶。
　でも、なぜか鮮明に覚えているのが、食べ物ことだ。
　おそらくこれが舌の記憶というものなのだろう。アイリーンとして生まれてこの方、食べたことのないはずの料理の味を私の舌はしっかりと覚えていたのだ。
　前世は結構な食いしん坊だったようなのだ。
　おかげで今世ももれなく食いしん坊だ！
　幸いにして、伯爵家という裕福な家系に生まれたので、食べ物には困らなかった。
　でも、比べるのがいろんな料理に溢れた素晴らしき元の世界。
　その世界の料理の味だけは鮮明に覚えている私にはこの世界の食事は物足りなかった。
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