転生令嬢は小食王子のお食事係
「もう、なんなのよ……！」
　ここ数日厨房から香ってくるいい匂い。
　今日はスイーツを作っているのか、甘い匂いでことさら魅力的だった。
「我が物顔で楽しそうに料理をして、こんな匂いまで振りまいて……！」
　こっちにしてみれば、地味な嫌がらせでしかない。
　そのくせ作った料理は食べられるわけでもない。
　彼女たちが去った後に厨房に行ってみたが、いつも通り自由に食べろと言わんばかりに質素なパンとハムとチーズがあるだけだった。
「まったくあの王子はなぜ料理人くらい雇わないのよ！」
　おかげでこっちはここにきて、ひもじい生活を強いられている。
　食べ物はあるけれど、毎日同じパンとハムとチーズ。
　たまにそれらの種類が変わることはあっても、それはほんの少しの違いだ。
「早くこんなところからおさらばするんだから！」
　仕方なく冷たく少し乾燥しているパンを頬張る。
　ほぼ味のないそのパンに一層むなしさを感じながら、私は消えない鬱憤を胸の内にくすぶらせるのだった。
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