転生令嬢は小食王子のお食事係
「食べる」
「はいはい、そう言うと思いましたよ~。アイリーン嬢がケーキはあらかじめ切ってあるのでそのまま摘まんでくださいって。いや~、気が利くなぁ」
 テオが差し出してきたバスケットの中を覗くと、きつね色に焼かれた箱型のケーキが入っている。よく見ると数センチ幅に切れ目がある。
 僕はそこからひと切れ取った。
 断面を見ると、クリーム色の生地に散らばるようにドライフルーツとナッツが見える。そして、なんといっても特徴的なのが濃厚に香るウィスキーの香り。
 どうやらウィスキーをふんだんに使ったケーキらしい。
 数日前、テオがアイリーン嬢からそんなケーキがあると聞き、是非食べたいからと僕の秘蔵酒を一本奪っていった。
 そのウィスキーで作ったケーキなのだろう。
 おいしくなければ恨むぞ、テオ。
 なかなかの年代物だっただけに、そのまま飲んだほうがおいしかったんじゃないかという気持ちが顔をだす。
 しかし、これまでアイリーン嬢の作った料理で外れはない。お菓子もただ甘ったるいものは苦手だが、アイリーン嬢が作った焼き菓子は好きだ。
 だから、このウィスキーケーキも自然と期待値が上がっていた。
 思い切ってパクリと頬張る。
 その瞬間、濃厚なウィスキーの香りが鼻に抜けていく。
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