転生令嬢は小食王子のお食事係
 むしろそのために、心が広そうな旦那様を探した方が建設的だよね……!
 そんなことを考えていると、部屋をノックする音がした。ぐったりとソファーに沈めていた体勢を正してから、「どうぞ」と答えると入室してきたのはマリオンだった。
「アイリーン様、『刺繍をご一緒しませんか』とお誘いが届いておりますよ」
 部屋に入るなりそう話すマリオンによると、先輩の女官さんが刺繍をするので、私も一緒にということらしい。
 刺繍は淑女のたしなみである。
 貴族女性に必要な教養はいくつかあって、読み書き、計算、そして裁縫だ。
 体が丈夫な人ならば乗馬もたしなむ。ただ貴族女性が馬に乗る時は、横向きだ。ドレスの状態で乗れる専用の鞍があるのだが、これがまた不安定でなかなか乗りこなすのが難しい。
 私もだいぶ上達したがまだまだ練習中だ。この王妃宮でも遠乗りに行くことがたびたびあるので、気が抜けない。
 今日は刺繍ということでほっとする。
 乗馬よりもまだ刺繍の方が得意だからだ。
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