転生令嬢は小食王子のお食事係
「参加しますわ」
 料理ができない気分転換にはならないだろうが、気は紛れる。それに、こういったお付き合いも貴族令嬢には重要だ。
 何より、料理をしてもいいと許してくれる旦那様を見つけるには淑女修行も大事なことだ。
 マリオンに裁縫道具を準備してもらい、私はお誘いを受けた女官が待つ部屋へと向かう。
 料理ができない日々は淡々と過ぎていった。

 そんな日が続いたある日。
 私は緊張しながら、王妃様の私室を訪れていた。
「失礼いたします。お呼びをお伺いしましたが……」
「アイリーン、いらっしゃい。こちらにおかけになって」
 そう言って、王妃様は自分の向かいの席を示した。
 マリオンが引いてくれた椅子に丁寧な動作で座ると、王妃様の側仕えがお茶を入れてくれる。
 給仕を待って、側仕えが離れるとまずお茶を飲んでから、王妃様が切り出した。
「本日、あなたをお呼びしたのはね、少し込み入った話とお願いがあったからなの」
 カップをソーサーに置きながら言う王妃様の言葉に、私は心の中で身構える。
 あれから厨房には行ってないから、特に王妃様から注意されることはしていないはずだし……。
 何を言われるのかと頭の中で思い当たることを想像するも、該当することが思い浮かばない。
< 53 / 215 >

この作品をシェア

pagetop