寂しがり屋の月兎
一瞬で望の頬に朱が差した。

ほとんど掴みかかるくらいの勢いで美少年に手を伸ばし、ノートを取り返すために腕にしがみついた。

自作の漫画やら見せられないようなイラストやらが散らばるノートが、他人の手にあるなんて、そもそも今まで誰にも見せたこともないのに!

このノートは望の命より大切だと、本気でそう思っているのだ。

望に掴みかかられて揺れた手から、ノートが地面に落ちた。

ほっとしたのも束の間、七月初旬の風がまた、意地悪く吹き抜ける。

望と美少年の髪を散らし、そしてノートを音を立ててめくっていった。

「……わ、わー!」

反応できなかった数秒を置いて、望はノートの上に覆い被さるように跪いたが、時はすでに遅かった。

美少年は、一時も目を逸らすことなく、白紙に描かれた少年少女、真っ直ぐなコマ割り、たまの風景画──望の絵を凝視していた。
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