寂しがり屋の月兎
「可愛い!」

望を一目見た兎田の開口一番がこれである。

よく晴れた空に似つかわしくない、氷山のごとき冷気を、有明は一瞬でまとった。

彼女に構わず、兎田は初夏に相応しく眩しい笑顔を全開にしている。

寒暖差に悩まされる望は三日月に目で助けを求めた。

慣れてきたらしい彼は、表情一つ変えず兎田の後頭部をはたく。

不満げな兎田は、けれど望を見ると相好を崩す。

嬉しそうに笑うこの美少年は、自覚しているのだろうか。

待ち合わせ場所の周辺にいる人々から、多大なる注目を集めていることを。
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