今宵、貴女の指にキスをする。
「楠先生も後悔していた。あの人はプライドは高いし、万人とは少し違った思考の持ち主だから」
「意味がわかりませんが」
「楠先生、木佐ちゃんのこと良いなぁって思っていたんだってよ。木佐ちゃんの出している作品もすべて目を通しているし、著者書影を見て会いたいと思っていたんだと」
「は?」
「だけど、若い女の子をどう口説いて良いものかと考えあぐねていたら、部屋に連れ込もうとしていたんだとよ……エロおやじめ!」
ギリギリ歯ぎしりをしているように顔を歪めている堂上だったが、その結末になんだかドッと疲れが一気に出た。
ベンチに座り込む円香に、堂上はもう一度頭を下げた。
「楠先生には、もう二度と木佐ちゃんに近づかないと約束させた。本当に申し訳なかった」
必死に謝り倒している堂上に、円香は小さく呟いた。
「そんなことして、堂上さんの立場は悪くならないんですか?」
円香のその言葉を聞いて、堂上は頭を上げて呆気に取られている。
どうしましたか、と声をかけようとすると、堂上は盛大にため息をついた。