今宵、貴女の指にキスをする。

「堂上さん。私の恋人に下手なまねをするようでしたら、私にも考えがあります」

 相宮が円香のことを自分の恋人だと言い切った。
 堂上が驚いたように目を大きく見開く。もちろん、円香も同じだ。

 突然の恋人宣言に驚きが隠せないでいる円香に視線をチラリと向けたあと、相宮は再び堂上を見つめる。

「私はA出版社の仕事は今後一切引き受けない。そう言ったら、貴方の上司はどう思うのでしょうか」

 堂上の顔がますます歪む。

 それも仕方がないことだろう。
 なんと言っても有名ブックデザイナーの相宮が手がける本は多数ある。

 A出版から出された本、とくに大御所と言われる作家陣たちのブックデザイナーを相宮は一手に請け負っている。
 それもすべて作家陣たちからの熱烈ラブコールがあったからこそ、相宮が手がけていたのだ。

 もし、相宮が一切A出版の仕事を引き受けないと言い出せば……作家陣たちだって黙ってはいないだろう。
 下手をすれば他社から出すと言われかねない事態を招く。
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