今宵、貴女の指にキスをする。

 それがわかっているからこそ、堂上は何も言えないのだ。
 グッと押し黙る堂上に相宮は条件を提示した。

「私からの要求は、勝手に流されてしまった木佐先生の新作本デザインを私に戻すこと」
「っ」
「今後一切木佐先生に近づかないこと。そして、今回のような事態を招く行為をしないと約束していただきたい」

 押し黙る堂上に、相宮は冷たく笑った。

「木佐先生は、A出版から多数本を出されています。デビュー作を出した出版社ですからね。木佐先生としても他の出版社より特別な扱いをしていることでしょう。ですが、木佐先生は色々なところでもっと仕事をするべきです。A出版で独占して囲おうとしないほうがいい」
「……」

 半ば脅しに近いことを相宮は言い続ける。
 未だに声を発しない堂上に、相宮は厳しい口調で言う。
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