今宵、貴女の指にキスをする。

「堂上さん、決断してください。彼女のことを思っているのなら、この場は身を引いてください。木佐先生が怯えている」
「っ!」

 悔しそうに唇を噛みしめ、堂上は視線を勢いよく逸らす。
 そんな彼に、相宮は追い打ちをかけていく。

「今回の楠先生の件。これは堂上さん、貴方の判断ミスだ。よかれとして引き合わせたのかもしれませんがね」
「そうだな……その通りだ」

 絞り出すように言う堂上に、相宮は容赦ない。

「木佐先生のことを思うのなら、新作のブックデザインは私がやる方がいい。そうは思いませんか?」
「自信があるようですね。まぁ、確かに結果が裏付けていますけど」
「ええ、ありがたいことにね。それに、私が一番木佐円香という一人の作家を理解していると自負していますから」

 ですから、とっと担当を私に戻してくださいね。そう言ってほほ笑む相宮だが、目が笑っていない。
 堂上は盛大なため息をつくと、半ばヤケになったように言葉を吐き出した。
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