今宵、貴女の指にキスをする。

「はいはい、分かりましたよ。今日のこと、すべて俺が悪かった。それに……木佐ちゃんのことを考えれば相宮さんが装丁した方がいい。わかっているが……悪あがきしちまったなぁ」
「分かっているなら、さっさとお引き取りください」

 冷たく突き放す相宮に、堂上は苦笑を浮かべる。

「木佐円香先生も、相宮さんも我がA出版に必要な方たちだ。編集者として、その条件を呑まざるを得ないでしょう」

 堂上さんは、チラリと円香に視線を送る。そして、いつもの飄々とした様子でほほ笑みかけてきた。

「木佐ちゃん、今日は怖い思いさせてごめんな」
「堂上さん」
「木佐円香を口説いて落としたかったけど、相宮さんと付き合っているなら諦めるわ。仕方ないし」
「えっと、その!」

 それは誤解というか、言葉のあやかと思います。円香はそう口に出そうとしたが、相宮が笑顔で制止してきたのでグッと押し黙る。
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