今宵、貴女の指にキスをする。

「今なら最終に間に合うでしょう」

 小さく頷いた円香だったが、手を離してほしいというお願いを言うことができない。
 相宮が威圧的な雰囲気を醸し出していたためだ。

 乗車券を購入している間も、ずっと円香の手首を握ったままである。
 こんなふうに外で相宮に手を握られたことはない。
 だからこそ、ドキドキしすぎてどうにかなってしまいそうなのに相宮は冷静だ。

 こんなに心を乱されているのは自分だけなのだろうか。
 円香は落胆と同時に羞恥にかられた。

 複雑な気持ちで相宮の背中を見つめ、先ほどまでのやりとりを思い出す。

 都合良く相宮が円香に電話をしてきたのは、七原のおかげだと相宮が言っていた。
 七原は今朝の電話以降、ずっと円香のことを気にかけ続けてくれたのだろう。
 そこで思い出したのが、相宮だったのかもしれない。
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