今宵、貴女の指にキスをする。

「木佐先生」
「は、はい!」

 円香が弾かれるように返事をすると、相宮は少しだけ不機嫌な声で言った。

「……私は怒っています」
「え……?」

 どうしてだろう。何か相宮を傷つけるようなことを言ってしまっただろうか。
 青ざめる円香を見て、相宮はハッと呆れたように声を上げた。

「木佐先生の新作装丁デザイナー、どうして私から他の人間に変わったのか。疑問には思わなかったんですか?」
「え?」

 円香は目を見開いた。相宮を見つめると、どこか非難めいた視線で円香を見つめている。
 その視線の鋭さに円香の身体はすくみ上がってしまった。

 もちろん疑問に思ったに決まっている。
 どうしてそんなことになってしまったのか。七原に聞こうと何度も思った。
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