今宵、貴女の指にキスをする。
「私に心を開いてくれていないのでしょうね」
「え? 何か言いましたか」
円香の耳には相宮の呟きは聞こえなかった。
小首を捻る円香に、相宮は一回だけ首を横に振った。
「いえ、なんでもありません」
それだけ言うと、相宮それ以上は口を開くことはなかった。
その代わり、終着駅に着くまで相宮ずっと円香の指を優しく触れてきた。
そのタッチは、今までと変わらない。
だけど、どこか熱を持っているように感じたのは円香の気のせいだろうか。
何度か声をかけたが、相宮は一言も口をきいてくれない。
今回のことで、円香のことをすっかり呆れかえってしまったのだろうか。
デザイナー変更のことについて、円香が抗議することもなかったことに気分を害してしまったのだろう。