今宵、貴女の指にキスをする。

 マグカップを受け取ろうとしたとき、再び相宮の指に触れた。
 ドキッと胸が高鳴っている円香に、相宮は真剣な表情で口を開く。

「何を不安に思っているのか知りませんが」
「え?」
「私は木佐円香先生の作品が好きなんです。だから、貴女の本のデザインを手がける」
「……」

 そういうことです。そう言って目尻を下げる相宮に、円香は曖昧にほほ笑んだ。

(嘘つき。私の作品ではなくて、手が好きなだけでしょう? だから……)

 心の中で呟いたあと、円香は相宮に見つからないように息を吐き出す。

 口に出して言ってはいけない言葉だ。
 これを言ったが最後。相宮は再び円香の前には現れなくなる。そんな気がする。

 円香はその言葉を無理矢理呑み込んだ。
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