今宵、貴女の指にキスをする。

 恐ろしいほどの剣幕に、円香は恐れをなして何度も頷いた。
 ようやくいつもの雰囲気に七原が戻ってきたことに安堵した円香は、七原に椅子を勧める。

「とにかく座ってください。まだ色々とお話を聞きたいことがあるんです」
「ありがとうございます、先生。もちろん、色々とお話させていただこうかと思っています。とくに相宮さんのことについて」
「っ!」

 言葉をなくす円香に、七原はフフンと得意げに笑って「そこが一番聞きたいことでしょ? 違いますか?」と小首を傾ける。

 どうやら七原にはすべてお見通しといった雰囲気だ。
 円香も椅子に座り、七原をまっすぐに見つめる。

「まずは結論です。今度の新作装丁デザイナーですが、当初の通り相宮さんにお願いすることに決定いたしました」
「そうですか」

 ホッと胸を撫で下ろす円香に、七原は何かを思い出したかのように怒りを滲ませて言う。
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