今宵、貴女の指にキスをする。

 すると、七原は困ったように眉を下げる。

「木佐先生がなんでデザイナー変更について異議を申し立てなかったか。私にはなんとなくわかっていますけど」
「え!?」

 驚いて七原を見つめる円香に、彼女は肩を竦めた。

「だって、木佐先生は相宮さんのことが好きなんでしょう? ビジネスパートナーとしてでなく、異性として」
「っ!」

 言葉がでない。円香はただ目の前に座る七原の目を見つめる。
 そんな円香の様子を見て、七原は小さく苦笑した。

「デザイナー変更は相宮さんから言い出したのではないかと思って、怖くて聞けなかった。好きだから尚更聞けなかった。そういうことじゃないでしょうか?」

 その通りだった。
 ポカンと口を広げて七原を見つめ続ける円香に、彼女は苦笑する。
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