今宵、貴女の指にキスをする。
「だ、だけどね。相宮さんは違うと思う」
相宮はただ指フェチの欲求を満たすために、理想の指を持つ円香に興味を持っているだけだ。
愛だの恋だのという感情とは別のところに気持ちはあるはずである。
相宮にとっての理想の指に触れるために、円香が執筆した本の装丁を相宮はしているだけ。
報酬は円香の指に触れること。ただ、それだけだ。
さすがに指フェチのことを七原に話す訳にもいかず、言葉を濁しながら相宮の気持ちは別のところにあると苦言する。
だが、七原はますます大きなため息をついた。
「木佐先生、それ本気で言っています?」
「本気よ。だって……デビュー作からずっと相宮さんとお仕事できているのは、A出版さんがプッシュしてくれているからだろうし。相宮さんだって長年付き合っている出版社のお願いを叶えているだけなんじゃ」
円香の率直な気持ちを告げると、七原は頭を抱え、円香をジトッとした目で見つめてくる。どうしたというのだろうか。
戸惑う円香に、七原は盛大にため息をついた。