今宵、貴女の指にキスをする。
「言っておきますけど、うちの出版社が常に相宮さんに木佐先生の作品装丁をお願いしている事実はありません」
「え?」
「すべて相宮さんサイドからのたっての願いなんですよ。相宮さんはA出版に交換条件を出しているんです」
「交換条件……ですか?」
「ええ。他の大御所作家の装丁をするから、その代わり木佐円香先生の装丁は必ず自分にさせてくれって」
初耳だった。驚きすぎて言葉が出ない。
口を押さえたまま固まり続ける円香に、七原はクスクスと笑い出した。
「そう言い切るのは、相宮さんが木佐先生のことを特別な人だと思っているからでしょう?」
そうなのだろうか。
ただ単に、円香の作風が好きでしているだけという可能性もあるじゃないか。
円香はまだ信じられず、七原を訝しげに見つめるだけしかできない。
「真相は相宮さんだけが知っていますよ、木佐先生」
「七原さん」
戸惑う円香に、七原はニッと口角を上げる。