今宵、貴女の指にキスをする。

 いつものように椅子に座る相宮は、隙がないように思う。
 背筋をピンと伸ばし、凜とした様子は以前と変わりはない。

 それに京都で見せた円香に対する怒りを、今は感じられない。
 それに関してだけは、ホッと胸を撫で下ろす。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 コーヒーのカップをテーブルに置き終わると、相宮の手が円香の手首に伸びてきた。
 驚いて思わず声を上げようとした円香を、相宮はジッと見上げている。

 京都での夜と一緒だ。手首から伝わる相宮の体温が、円香の心を乱していく。
 お互い何も言わずただジッと見つめ合っていると、相宮が口を開いた。

「木佐先生」
「は、はい!」

 上擦った声に恥ずかしさを覚えたが、円香は相宮が何か言いたげにしている様子を見て慌てた。
 そして挙動不審のまま、円香は相宮に対して頭を下げる。
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