今宵、貴女の指にキスをする。

「えっと、その……ごめんなさい!」
「え?」

 驚いて目を丸くしている相宮に、円香はずっと謝りたいと思っていたことを告げる。

「私、怖かったんです」
「木佐先生?」
「次回作の装丁、相宮さんではなく他の人に代わったと聞いたとき。相宮さんに見限られたんだって……そう思ったんです。そうじゃなくても、堂上さんがこのマンションに来たときに相宮さんと言い合いになりましたよね。私のこと心配してくれたのに、意地を張ってしまったから、それが原因でもう私に会いたくないと思ったんだろうって」
 
 七原に確認しようとすれば出来たし、相宮が仕事を途中で放り出した理由を聞くべきだとは思っていた。
 だけど、それが出来なかったのは、決定的な現実を突きつけられるのが怖かったからだ。

 ギュッと手を握ろうとすると、手首を掴んでいた相宮が円香の指に絡めるように繋いできた。
 もう片方の手も円香の手に沿わせ、ギュッと握ってくる。

「木佐先生、私もすみませんでした」
「相宮さん?」

 急に頭を下げた相宮に驚きの声を発すると、彼は困ったように眉を下げた。
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