今宵、貴女の指にキスをする。

「こう言っては自意識過剰かもしれませんが、私はそれなりにブックデザイナーとして多忙な日々を送っています。それこそ仕事が次から次に舞い込むために仕事が追いつかない程度には」
「そ、それは、はい。よく存じ上げています」

 コクコクと頷く円香の指を弄りながら、相宮は小さく笑って続ける。

「そんな私が毎回貴女の本のデザインをしている。不思議だと思ったことはないですか?」
「ありますよ! ずっと思っていました」

 この前も七原にそのことを言われたばかりだ。
 円香はこの機会に聞きたいと思って、相宮に質問をぶつけた。

 すると、相宮は一言。満面の笑みを浮かべて言う。

「恋をしたんです」
「は……?」

 意味が分からず、円香は口をぽっかりと開けてしまう。
 マヌケ面をしているだろうと思うが、直すことができない。

 それぐらいにテンパっている。相宮は、固まり続ける円香の手を恭しく持ち上げ、指にキスをしてきた。
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