今宵、貴女の指にキスをする。
「相宮さん!?」
ビックリして相宮から離れようとしたのだが、それを円香の手首を掴んで相宮が阻止した。
円香の手首をギュッと掴み、真剣な面持ちで相宮は見つめてくる。
「貴女の処女作。私は選考前に読ませていただいたんです」
「え?」
「編集長が"なかなかピュアな文章を書く子が現れたから読んでみろ”と言って、木佐先生の原稿を渡されました」
そのときのことを思い出しているようで、相宮は懐かしそうに目を細めた。
「読ませていただきました。読み終えたあとの爽快感、次からのステップに繋げる勇気を貰った気がしました。そのとき思ったんですよ。この人の本をデザインしたい。他のデザイナーにはさせたくないと」
「相宮さん」
まさかそんなふうに思っていてくれたなんて。驚きと嬉しさで円香はどうしていいのかわからない。
相宮は相変わらず物腰の柔らかい笑みを浮かべて、優しげに言った。
「だから言ったでしょう? 私は純粋に木佐作品が好きなのだと」
恥ずかしそうに目を泳がせたあと、相宮は円香をまっすぐ見つめてくる。