今宵、貴女の指にキスをする。
今日はA出版社主催のパーティーだ。
創立三十五周年記念の式典で、小説家はもちろん、エッセイニスト、漫画家、イラストレーターなどなど、各分野で活躍する一同が集まった大きなパーティーが行われている。
円香は今、A出版が発行している月刊誌に連載をしていたり、デビュー作もA出版から出していることもあってパーティーにお声がかかったというわけだ。
だが、もともとそういうパーティーなどの場は苦手な上に、作家との付き合いも極力していない円香にしてみたら居心地が悪いのも仕方がないだろう。
欠席にしてもらおうかと思っていたのだが、担当の七原が「ぜひ、ぜひ! 木佐先生にも」と熱心に誘われ、渋々足を運ぶことになったのだ。
円香はソフトドリンクを手にして隅っこの方でひっそりと立ち、辺りを見回す。
大御所作家があちらこちらにいる。それだけでテンションは上がってきた。
サインをいただきたい、お話してみたい。そうは思うのだが、なかなか自分から声をかける勇気は持てず、ただただ遠くで目を輝かせるだけにとどめておく。