今宵、貴女の指にキスをする。

 相宮のことが好き。そんな感情は、意識的に隠していたのだろう。
 いつものポーカーフェイスが役に立ったということだろうか。

 いや、もっと表情に表れていれば、早くに相宮と両思いになることも可能だったのかもしれない。
 そう考えると、やはり自分の欠点は直しておきたいと円香は心底思った。

 この人が好き。相宮さんが好き。心の中で呟いても、なかなか相手には伝わらない。
 相宮が円香の指に触れて想っていたように、相宮の熱を感じながら円香も相宮を想っていたのに……
 言わなくても通じる。そんなことはなかなかあるものじゃない。

「貴女が好きです」
「っ!」
「想いは言葉に出さなくては、捕まえたいと思っても捕まえることはできない」
「相宮さん」
「基本的なことなのに、見落としていたようです。……なにより、年を重ねるごとに臆病になっていたのかもしれませんね。だから、貴女の指に触れるだけで何も言えなかった」

 意気地なしですよね、と相宮は穏やかに笑う。
 だが、すぐに表情を改める。
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