今宵、貴女の指にキスをする。

「すごく驚いた顔していますね」
「だって、驚きます。我慢……していました?」

 ずっと指に触れていたじゃないですか。円香がそう反論したが、相宮は涼しい顔をして言う。

「指だけ、でしょう?」
「え?」
「私は指だけじゃ物足りなかった」
「相宮さん」

 声が震える。相宮の貪欲なまでに円香を請う気持ちは、その瞳に表れている。

 何か言いたいのに、何を言ったらいいのかわからない。
 円香は、ただ自分を見下ろす相宮を見つめるしかできなかった。

「貴女のすべてに触れたい」

 円香の手を恭しく取り、相宮は手の甲にチュッと唇を寄せた。
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