今宵、貴女の指にキスをする。

『名字が一緒なら、私のことを名前で呼ばないといけないでしょう』

 そう笑顔で言い寄ってきたのは、すでに三年前だ。
 付き合う間もなく、入籍。すぐに二人の新居を探して住みだした。

 そのとき、『家庭に仕事は持ち込みたくないね』という双方の意見が一致。
 この共同オフィスを借りる経緯にいたった訳だ。

 現在、円香は仕事をセーブしている。だから、あまりこのオフィスにも足を運んでいなかったのだが、今こうしてオフィスにいるのは理由があるのだ。

 事の始まりは、昼間ある光景を目撃してしまったことから始まっている。
 あれを見てしまったら、本人にいち早く抗議しなくてはならないだろう。
 そう思って円香は、オフィスに足を運んだ。

 今、円香はフリースペースのソファーにふて腐れて座っている。
 その横に無理矢理入り込んで座った相宮は、困ったように円香の頭を引き寄せた。
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