今宵、貴女の指にキスをする。
「どうしたのかな、私の可愛い奥さんは」
「触らないでください!」
「んー、うちの奥さんが負の感情を抱いているときはすぐにわかるんだけど、その内容がわからないのが困りますね」
そういう態度を取るのか。円香は厳しい視線を相宮に向けた。
「ご自分の胸に手を当てて、昼間のことを思い出してください」
「昼間? もしかして円香、A出版にいた?」
その通りだ。仕事をセーブしているが、完璧になくしている訳ではない。
七原に『ご自宅に伺います!』と言われたのだが、運動不足を解消するためにA出版まで書類を持って行ってきたのだ。
『身重なのに、大丈夫でしょうか!?』
と何度も七原に電話で心配されたが、今はつわりも落ち着いてきたし、経過も順調。お腹もまださほど大きくなっていない。
だからお散歩がてら行くと言って、久しぶりにA出版へと足を運んだのである。